2020/10/26 18:37
こんにちは。
デザイナーの武石です。
今回の【デザイナー’s Blog】は、『みんなが主役、ブリティッシュウール 3点セットアップのおはなし(前編)』です。
キクスドキュメント. / コノロジカの得意分野といえば
そう、セットアップです。
今シーズンも良いの入ってるよ!
と思わず呼び込みたくなるアイテムがいくつか揃っているのですが、まずトップバッターに選んだのがこの子たちです。
C/W PLAID DOUBLE TUCK PANTS / 綿ウールチェックダブルタックパンツ(NVY) ¥31,900(税込)
ジャケット、ブルゾン、パンツ。
わー、豪華。
この存在感たるや
まさに、みんな主役級の役者たちです。
ブリティッシュウール(英国羊毛)と綿を交互に織り、チェック柄を構築した生地。
を使った、3点セットアップです。
英国羊毛、なんと世界の羊毛のわずか3%しかないとても希少価値の高い羊毛だそうです。
羊毛は同じ天然素材のコットンと比較しても吸湿性・保温力に優れており、電車や車と外など、暖かい場所と寒い場所の移動を交互に繰り返す冬には最高の素材です。
温かいというイメージはありますが、吸った汗を外に出す放湿性に優れているというのは、あまり知られていないかもしれません。
弾力性と耐久性に富み、何と言っても最大の特徴であるカリっとした風合いが私は大好きです。
まさに英国にイメージするような何ともマニッシュな素材で、大変仕立て映えする生地が多いのです。
今回のように腕の良い職人さんにテーラードジャケットなど作って貰えると、そこはかとなくカッコよく仕上がるので、もうゾッとします。(恐)
英国羊毛について詳しく知りたい方はこちらがとっても分かり易いのでどうぞ。(出典 Sound Sleep Website)
それではまずジャケットから見てみましょう。
どれどれ。
形は、ややゴージの低いノッチドラペルに
二つボタン。
ちなみに二つボタンの場合、一番上のボタンだけを留めるのが正式な着方です。
そして袖山をかなり低めにした、ナチュラルショルダーの肩周り。
肩パッドや裄綿などは入れず、保形性を高める為に“増し芯”を当てがっています。
胸ポケットは例に漏れず、バルカポケットとなっております。
なぜバルカ(船底)形なのでしょうか。
ポケット口布の上底辺が、船底のように底辺が湾曲していますね。
これは、男性がジャケットを着用した時に出来るだけ胸板が厚く張って立派に見えるように、目の錯覚を誘う造りになっているのです。
どうです、そう見えますか?
このような、テーラリングの細部に宿るストーリーに魅せられて、私はメンズテーラリングの世界の門を叩きました。トントン
そしてウォッチポケットを含むスラントポケット。
フラップ幅はやや広めです。
フロントカットは敢えてスクエア。
ダブルブレストジャケットを彷彿とさせるカットは、ちょっとした遊び心です。
そして後ろはサイドベンツ。
ベンツってご存知でしょうか。
(もしかしたら「スラントポケットとかも説明してよ」というオーディエンスがいるかもしれないけど、今回はベントにフォーカスする。
ごめんよ。)
この、ジャケットの後ろ身頃裾にあるスリットのことですが、一つの場合は「センターベント」二つの場合は「サイドベンツ」と言います。
どちらも動きやすさを求めて出来たものですが、センターベントは、英国の乗馬文化に由来していると言われています。
馬に跨った時、ジャケットの裾が窮屈に持ち上がったりしない様に背中心の裾にスリットを開けたのが発祥だそう。
サイドベンツはというと、昔、騎士がサーベルを抜く時や提げる時にジャケットの裾が邪魔にならない様、背中の両側裾にスリットを入れて利便性を高めたと言われています。
二本だからベントではなくベンツ、です。
では、どうしてKics Document.の今季のジャケットにはサイドベンツが採用されているのか。
サーベル使わんだろ。
それは、それぞれの基本原則と特徴を踏まえ、デザインを考えたからです。
まず、センターベントが向くデザインや体型はこう。
・ジャケットそのものがスリム〜ジャストなサイジング
・着丈が短め〜標準
・着る人の腰回りやお尻が細身〜標準
・しゅっとスッキリ、シンプルなイメージ
・ソフトな風合いと好相性
そして、サイドベンツが向くデザインや体系はこうです。
・ジャケットそのものがボックス〜ゆったりなサイジング
・着丈が長め
・着る人の腰回りやお尻がしっかり目
・クラシックでややエレガントなイメージ
・英国調の威厳のある色柄と好相性
今回のジャケット、シルエットは着丈長めのボックス型、さらに英国羊毛混のクラシックなチェックを落とし込んでいます。
また一番のポイントは、セットアップの組下であるパンツが太いダブルタックパンツであることが最大の決め手となり、やはりサイドベンツが最適と判断したわけです。
全体的にボリュームのある堂々としたイメージです。
T/C PLAID REGULAR SHIRT / 綿ポリエステルチェックレギュラーシャツ (BEIGE) ¥25,300(税込)
C/W PLAID DOUBLE TUCK PANTS / 綿ウールチェックダブルタックパンツ(BRN) ¥31,900(税込)
と、基本原則を大事に、さもセオリーに忠実にデザインしたかの様に書きましたが、スケッチしている時はそこまで深く考えていません。
でも、何となく身体が覚えているというか、スーツ畑修行時代に叩き込まれた基本と経験が礎となり、自然とその様にデザインを向かわせているのだと思います。
ただし今はバリバリのテーラリングの世界でスーツを作っているわけではありません。
ゴージやラペルのバランス、ブレストの種類とフロントカットとの関係性など、必ずしも基本原則通りにする必要は無いと思っています。
厳格なルールと歴史を重んじるスーツの世界が大好きでこの世界に入った私ですが、カジュアルの世界はその自由度が高いのが面白い。
構築的な考え方を常にベースとして据え、単純にカッコいい!と思えるもの、着易くて気軽に楽しめるものを今は作っています。
GIZA CTTN JERSEY BOTTLENECK P/O / ジャージーボトルネックプルオーバー (ORG) ¥ 15,400 (税込)
C/W PLAID 2B JACKET / 綿ウールチェック2Bジャケット (BRN) ¥48,400(税込)
PE GRENCHECK SHOECUT PANTS / グレンチェックシューカットパンツ(GRY) ¥29,700(税込)
いやはや、それにしてもベントのお話だけで二合くらい空きそうでしたわな。
3点セットアップの仲間、ショートブルゾンとダブルタックパンツについては後編にて。
近日中にしっかり語っていきたいと思います。
おっ楽しみにー。